国内、そして世界に散らばる食品サンプル愛好家。私を含む食品サンプルラバー待望の展示会がついに開催された。その名も、『躍動する食品サンプルたち』。会場であるたばこと塩の博物館に、私は興奮を抑えながら潜入してみた。
入口で私を待ち構えていたのが、展示会のポスターにも使用された作品「ミックスべジュエリータブル」。
斬新な食品サンプルによく見られる“論理飛躍”を遺憾なく感じる名作だ。写真ではよく見えないが、イルミネーションが施されキラキラしている。そのシュールリアリズムの極地に、いやがおうでも期待は高まる。
続いて目に留まった作品が、「キュウビ(きゅうり+えび)」。

この展示会に並ぶ食品サンプルは、業界シェアNo.1のイワサキ・ビーアイの社内コンクール作品だそうだ。この「キュウビ(きゅうり+えび)」を鑑賞するだけで、イワサキ・ビーアイ社員の並外れたエキセントリックさが伝わるであろう。

出た。“浮き”系作品、「表と裏のマリアージュ」。食品サンプルラバーの異常なまでの“浮き”好きに配慮した、珠玉の一品である。野菜を袋から皿に移す。その日常的な動作が芸術へと昇華される瞬間に立ち会えた歓びに、私は早くもむせび泣き寸前まで追い詰められた。
今展示会で、私にもっとも鮮烈な印象を与えた作品が次の「残り物(午後三時のポロネーゼ)」。

食品サンプルは、美味しそうに見えなければならない。という常識を軽々と飛び越え、あさっての方向に旅立ったその跳躍力に、私はただひたすらに泣き濡れた。
展示会場には、実物の他に、写真が数枚飾られていた。いくつかをご紹介したい。

なぜ、このような作品を製作しようと思いついたのか。頭はそれでいっぱいである。

なぜ、スイカが地球なのであろうか。

なぜ、ショートケーキが薄く切れるのであろうか。

うむ。この論理飛躍はわかる。トマトそのものからケチャップが出るという飛躍。うむ。わかる。

しかし、この飛躍はわからない。スプレー缶から飛び出すカレー群。そこにどういったメッセージが込められていたのだろうか。奥深すぎて、私はついにわからなかった。
展示作品に目を移し、ふいに目に飛び込んできた作品が、「JunK Food!!」

…自由って、素晴らしい。

……自由って、素晴らしい。

………自由って、素晴らしい。
来場者も、躍動する食品サンプルたちに見入っている。
しかし、彼を見ていて切なくなるのはなぜだろう。「哀愁」と引いた辞書のイメージ写真に使われてもよいような悲哀感。一体それはどこからやって来ていたのだろう。
私はおよそ30分にわたる鑑賞を終え、会場を後にした。渋谷の街は夕暮れに包まれていた。心から来てよかった。そう胸に刻みながら、私は愛すべき日常の世界に帰還したのである。
2008/11/29
浮かんでは消えてゆく前に
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